手術室で使う鎮痛
手術室で使う鎮痛と言えば、
・アルチバ® の持続静注:少量で短時間作用なので全身麻酔ではほぼ確実に使用!(IVPCA・epi等との併用もする) シリンジポンプで末梢静脈路から持続静注。一般名レミフェンタニル。
・フェンタニルの適宜静注:アルチバ(レミフェンタニル)より長時間作用。術中痛そうな時に末梢静脈路より適宜静注。
・spinal(脊髄くも膜下麻酔):1-2時間の意識下OPEで使う局所麻酔。要は髄液内にダイレクトに薬剤をぶち込む髄注。危険なので、カテーテル留置できず一回投与のみ。
・IVPCA:術後にPCA(自己調節鎮痛法, 下記参照)としても使える。オピオイド(フェンタニル・モルヒネ)を末梢静脈路からを投与。
・epi(硬膜外麻酔):硬膜外麻酔にカテーテル留置出来るのでPCAとして使える。かつてはPCAの代表例であった。簡単な(=末梢静脈路につなぐだけの) IVPCAの登場でとって変わられつつあるが、IVPCAが適さない消化管手術(フェンタニルで消化管活動抑制がある為)などで適応になる。
・末梢神経ブロック
参考:PCA (PCA, Patient Controlled Analgesia 経静脈的 自己調節鎮痛法) 。患者さん自身が痛い時にボタンを押すと効くやつ。IVPCA(Intravenous PCA, 経静脈的PCA)、硬膜外麻酔で可能。(脊髄くも膜下麻酔ではカテーテルの留置が出来ないので一回投与のみ。)
アルチバ
一般名レミフェンタニル、商品名アルチバ。
全身麻酔(AOSR・AODR・PR)ではまず使う。
ultimate TIVA (アルティメット(究極の) ティーバ(Total Intravenous Anesthesia) ) の略!全経静脈的全身麻酔(アルチバ鎮痛+プロポフォール鎮静+ロクロニウム筋弛緩)が可能になったのはこのアルチバの登場による。
少量で著効するので必ず精密投与可能なシリンジポンプを使用する。
IVPCA (Intravenous patient controlled anesthesia)
★使用薬剤:フェンタニル
★注意点:呼吸数10回/min以上は保つようにする
脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔、腰椎麻酔、spinal anesthesia, 通称spinal)
★特徴
要は局所麻酔薬の髄注なので、
・ダイレクトに脊髄に薬が届く。→速くて強い、副作用(血圧低下)も強い
・危険なのでカテーテルの留置は出来ず、細い針で一回投与のみ、持続投与出来ない。→ 2−3時間しか効かない
★適応:1-2時間程度の手術における鎮痛(泌尿器科の手術とか、帝王切開)
★使用薬剤:マーカイン(ブピバカイン)など
小指のしびれが出たら呼吸・循環抑制が出始める危険なサイン!
硬膜外麻酔(epidural anesthesia, 通称epi)
★特徴
硬膜を通して徐々に浸透。カテーテル留置可能。→ゆっくり長く効く。
★禁忌:抗血小板薬・抗凝固薬 併用者で禁忌!(硬膜外血腫(足の運動障害等の症状を起こす)を起こすため)
★適応:全身麻酔時の術中鎮痛・術後鎮痛。消化管手術後など(IV-PCAで使うフェンタニル(オピオイド)には消化管運動抑制作用があるので、積極的適応にならないため。)
使用薬剤:マーカイン(ブピバカイン)・カルボカイン(メピバカイン)など
★麻酔薬によるブロック順:自立神経→温度覚→痛覚→触覚→圧覚→運動神経(神経の細い順)。なので適切な濃度では運動神経の抑制は起こらない。分離麻酔 segmental anesthesia。
気管内吸引
【気管内吸引】
気管分岐部に当たらない位まで挿入して吸引。当たってしまったらで少し引いてから吸引圧 20kPa(150mmHg)で吸引開始。
陰圧をかけるのは10秒以内、挿入を始めてから終わるまで15 秒以内に収める(息を強制的に止められている状態に等しいので、自分を息を止めてやってみると良い。)
★「気管分岐部に当たらない位」とは?
門歯〜咽頭 約 10-12cm
咽頭〜気管分岐部 約 10-12cm
→ 門歯〜気管分岐部 の 長さは、男性 26cm 程度、女性 23cm 程度。これ - 2cm程度入れれば良し。
★吸引カテーテルの太さ
吸引カテーテルは挿管チューブの内径の1/2以下の物が理想的(あまりに太いと無気肺になりやすい)
実際には12Fr (4mm), 14Fr (4.7mm) を使う事が多い。cf. 挿管チューブ 男性 内径8mm, 女性 内径 7mm を使うことが多い。
★吸引圧
文献によっては150-200mmHg としているものも。
ちなみに口腔内・鼻腔内の吸引圧 は 気管内吸引より 低い圧でよい。具体的には、100mmHg 位でOK。
参考:気管吸引ガイドライン 2013
AOS R(現在最多の全身麻酔)
2018年 現在最多の全身麻酔方法。
A = Air
O = Oxygen
S = Sevoflurane セボフルラン (吸入麻酔薬)
+R = Remifentanil レミフェンタニル (鎮痛薬)
麻酔の三要素は鎮静鎮痛筋弛緩 なのに、AOS+R って表現だと筋弛緩が入ってない。
筋弛緩≒ロクロニウムで当たり前だからかな。
<AOS-Rの実態>
鎮静: セボフルラン(吸入麻酔薬)だけでは導入が遅い & 患者さんに嫌な臭いがする ため、プロポフォール(静脈麻酔薬)で急速導入してからセボフルランで維持する
鎮痛;レミフェンタニルに加え、術中侵襲に対してフェンタニルで調整する事が多い
<全身麻酔の今後の動向>
TIVA
10年ほど前の経静脈麻酔薬(鎮静剤) プロポフォールの認可後広まりつつあるのが、TIVA (total iniravenous anesthesia) 全静脈麻酔法。(=吸入を使わないってこと)
利点:吸入麻酔を使わないのでOPE室/大気汚染がない、OPE室以外でも使える
問題点:吸入麻酔にくらべ効き具合に個人差が大きい
解決策: TCI (total controlled infusion), BIS モニター(脳波モニター) を使用する
★プロポフォールは小児で原則禁忌(propofol infusion injury)
AOD-R
最近 吸入麻酔薬(鎮静剤) デスフルラン(切れが良い)が発売され、今後 AOS-Rでなく、AOD(デスフルラン)-R になる過可能性も有る
*用語
TCI (total controlled infusion)
BIS モニター(bipercel index二波長指数)。脳波モニター。0(脳死)-100(覚醒)。麻酔中は40-60を保つ。
エントロピー モニター;脳波 EEG (electroencephalogram)、前額部筋電図 fEMG (frontal electromyogram) から求めた覚醒度を表す値。SE(state entropy, 0-91), RE(response entropy, 0-100)があるが、麻酔中は いずれも40-55 を保つ。
点滴速度
1秒に1滴 = 180 ml/h
・(1秒に1滴)=(1時間に60×60=3600滴)=(1時間に3600/20=180ml)
∵ 20滴 = 1ml
60 ml/h= 3秒に1滴 ∵ 180/60 = 3( ≒ 1500 ml/日)
40 ml/h= 4.5秒に1滴 ∵ 180/40 = 4.5( ≒ 1000 ml/日)
ちなみに小児用のルートなら、60滴 = 1 ml なので、1秒に1滴 = 60 ml/h。
実感を掴むには速度設定した輸液ポンプを見ると良いかも
参考;開腹手術なら300ml/h くらいで保つ
鎮静
麻酔の3要素 鎮静 鎮痛 筋弛緩 の一つ。
●鎮痛→鎮静(疼痛が有ると鎮静もなかなか効かない)
●持続静注に使える鎮静薬:ミダゾラム(ドルミカム)・プロポフォール(ディプリバン)・ケタミン(ケタラール)・デクスメデトミジン(プレセデックス)
プロポフォール(ディプリバン) 導入・切れが良く最も使われる。
ケタミン(ケタラール)「解離性麻酔薬」=新皮質と視床だけ抑制、辺縁系・網様体賦活系は活性化 → 血圧・心拍数 低下なし、呼吸抑制も少ない。筋注もあり。
じゃあなぜプロポフォールに負けてるのか?→切れが悪い・悪夢がある
ミダゾラム(ドルミカム);BZP自体の副作用がある+鎮静が深いためICU滞在延長しがち→プロポフォールに押され気味。
デクスメデトミジン(プレセデックス) 使用期間5日間を超える場合はエビデンスが少ない
★TIVA 全静脈麻酔薬 total intravenous anesthesia : 吸入を使わない、IVのみ の 鎮静+鎮痛+筋弛緩。